卒業生インタビューvol.3

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栗野宏文さんは現在、ファッション小売業、いわゆるセレクトショップの一部上場企業ユナイテッドアローズにお勤めです。15年前9人で始めたこの会社の創立者の一人でもあります。雑誌『フィガロ』の連載コラムは3年目をむかえ、ファッションでは有望な新人を輩出するベルギーのアントワープ王立美術学院の卒業制作の審査(1996~2002)に加わるなど、活動は海外までひろがってます。お忙しい日々の中、原宿にある本社ビルの打ち合わせ室で、仕事の原動力などについてお話をうかがいました。

(聞き手:和光大学 表現学部 教授 三上 豊)

ファッションってコミュニケーションなんです。僕は人が好きです。

聞き手:名刺を拝見しますと、”ユナイテッドアローズ常務取締役”とあり、その下に”チーフ・クリエイティヴオフィサー”とあります。そのあたりからお仕事について聞かせてください。

栗野:結論からいうと、時代の空気感を読むというのが仕事です。オリジナルのものづくりや仕入れをするにあたり、バイヤーに先見的なビジョンをガイダンスしなければなりません。たとえば、この前は2005年秋・冬の考え方を伝えました。それは……

聞き手:言っちゃっていいのですか。

栗野:ええ。テーマは大きく分けて2つ、”リアリティー”と”ファンタジー”です。その下に時代を読み解く4つのキーワードを設けました。ひとつが「歴史と物語」、次が「子どもの視点」、3つ目が「自由を求める魂」、4つ目が「両義性」です。

聞き手:もう少し、詳しくお聞きしたいところですね。

栗野:9・11以降、やはりマインドが二極化している面があると思います。ハートフルなものを求める面と刹那的な面と。それ故に、ラグジュアリー・ブランドの売り上げがよかったり、あるいは何か身近なハッピー感を求めるのと、そうでないところへいくことと。でも、人の気持ちはもっと複雑で、バランス感覚を働かせて物をジャッジしていく。この前の選挙だって民主党が伸びました。それは現実的な判断ですよね。以前なら<好感度>的な見方をされた候補者や青島幸男的な存在は結局<死に票>として避けられた。作り事やイメージ先行よりは現実性だよと。

「子どもの視点」というのは、映画でいえばカンヌで賞をとった「誰も知らない」とか。今の20代はどちらかといえば物質主義ですが、10代には(13歳や14歳というのが完全に子どもとカテゴライズできるわけではないけれど)もう少し自由で大胆な発想が見えてくるのではないかと。

3つ目の「自由を求める魂」は、映画で「パイレーツ・オブ・カリビアン」とか、村上龍の原作で「69」でしたか、<革命への憧れ>または<あのシックスティーズをもう一度>といった願望でしょうか。

4つ目の「両義性」ですが、これは少し分かりにくいかも。『ゲゲゲの鬼太郎』の「ネズミ男」ですね。いいやつであり、悪いやつ。正義の戦争なんてないし。いまテロと呼ばれるものがすべてテロなのか。映画のキャラでいうと、ルパンやバットマン、キャットウーマン、完全な正義ではない者たちとかでしょうか。現実では、布でいうと重そうだけど実際は軽い、分厚くても風通しがいいもの、とかになりますか。

聞き手:では、話を変えまして、在学当時の和光大学はどんな感じだったのでしょうか。

栗野:時代が時代でしたから、75年頃。結局は「自由」でしたね。というか、自主ゼミとかで自分でやるしかなかった。インディーズ魂、アンチ・メジャー。それと、多彩な人がいましたよね。テムジン(土方鉄人というインディーズ系の映画監督)とか、映画でもいろんなタイプの映画好きな人がいましたよね。

聞き手:単位はどうでしたか。

栗野:3年まででほぼ取ってましたね。4年が楽だった。

聞き手:卒論覚えてます?

栗野:ええ、「現代風俗に対する美学的考察」。いまも発想には変わらないことをやっているわけです。当時は消費社会が大きく変わるときで、一種のマーケティング論をやったんですね。

聞き手:経済学部でなく、芸術学科でやったんですね。

栗野:そうですね。学生時代にルネッサンスをかじって歴史の一種のリサイクルを知り、だから『ダヴィンチ・コード』が手に取るように面白い。本格的に記号論をやったわけではないけれど「記号論的な」発想の仕方は参考になったし、訳されていない原書を読むことで語学力が付いたし、好奇心を仲間と満たしていくことができましたね。文章を訳していくことは、いい意味での誤解だったかもしれない。でも、それが面白い。ときどき若い人に言うんです。「言い換えてみれば」「自分のことばで」と。

聞き手:今、取り組んでいらっしゃるお仕事はどんなものですか。

栗野:2005年春夏からスタートする「大人の男性向けの新しいブランド」の総合的なディレクションをしています。45歳から60歳までの本当に洋服が似合う世代に向けてのものです。昨年、50歳になったし、自分が消費者目線で考えていく。ブランドのタイトルは「ダージリン・デイズ」。

聞き手:モノがお好きなのですか。

栗野:よくそういわれるのですが、ファッションってコミュニケーションなんです。僕は人が好きです。人と関わるのが好きなんですよね。だから30年近くこの仕事をしているのだと思います。

(2004年掲載)

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プロフィール

栗野 宏文(くりの ひろふみ) アパレル企業取締役

和光大学人文学部芸術学科卒業。現在、株式会社ユナイテッドアローズ常務取締役兼チーフ・クリエイティブオフィサー

株式会社ユナイテッドアローズ

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