卒業生インタビューvol.7

長嶋さんと吉川さんは、2人とも和光高校の卒業生。2000年にダーリンハニーを結成、現在は太田プロに所属し、月一回の太田プロライブや「エンタの神様」に出演と、若手芸人として精力的な活動を展開しています。今回はそのお二人に話をうかがいました。
自分がこう積極的に動いていれば、そのパワーは絶対に人に伝わる。状況を良くするのは自分。
聞き手:二人で芸人やろうと思ったいきさつとか、その辺からちょっと話を聞かせてくれませんか。
吉川:いきさつはですねえ、高校二年の文化祭で、長嶋君がオンステージに出たいと。音楽の。でも、そのオーディションで、彼、落ちちゃったんですよ。そこが運命の分かれ道で。 長嶋)なんかね悔しいじゃないですか。
吉川:僕に「見返したい!」と熱く懇願してきまして。バンドじゃなくて、別のことでお客さん集めて、オンステージを全部食ってやる!「吉川お笑いやろうよ」って言われたんですよ。怨念に近いですよね。
長嶋:で大教室を借りて、日時もオンステージにぶつけたんですよ。わざと。向こうでバンドやって盛り上がると思われる時間帯ね。
吉川:そしたらお客さんがお笑いやってる大教室の方に集まりまして。
長嶋:圧勝でしたね。それで調子乗ったんですねえ。それで勘違いしました。
聞き手:それでいよいよプロになろうと。そういう世界に踏み込むには結構決心が必要だったんじゃないですか?
長嶋:そうですね。和光高校卒業後、ふたりとも別々の大学に行ったんですけど吉川が和光だったので、そこでお笑いのサークルを作ったんですね。月一ライブを教室をかりてやってたんですけど、だんだんお客さんが集まってきて、反響もよかったんです。それで学内のちょっとした有名人みたいな雰囲気になったんです。
吉川:授業出ると、「ああ、吉川だ!」って言われるんですよ。ゼミとかで。
長嶋:「本物だ!」みたいな。歩いてても「えっ」みたいなのが多少あったんですよ。学生の身分で。でなおさら調子乗るじゃないですか。「ちょっといけるんじゃないの」っていう風になりまして、そのときに多分もう麻痺してたんですよね。そんな難しいことなんてまったく考えなくて、すごくシンプルに、とりあえずじゃあプロダクションにあたってみようよ、って。
聞き手:太田プロ選んだのはどうしてですか?
長嶋:それも偶然なんですけどね。数うちゃいいや、当たればいいやっていうのがあって、色んなプロダクションに送ったんですね、履歴書を。とりあえず嫌がるぐらい送っちゃおうよ、って。そしたら多分、めんどくさいやつらだと思って呼ぶだろうって。そしたら太田プロがめんどくさがってよんでくれました。じゃあ一回来てみればって、見てあげるよって。
聞き手:どんな風な進みになるの?まずそうやって面接されて、もう一回来てみるかって感じなの?すぐ採用じゃないの?
吉川:ネタ見せというのがありまして。12時ぐらいに呼ばれるんですけど、見てもらえるのが夕方の5時とかなんです。それぐらいたくさん芸人さんがいて、ギュウギュウだからネタをやる場所がすごく小さいんですよ。限られたスペースなんです。たぶん50組くらいいたかなぁ。それでみんなお互いのネタを見ているんです。それを毎月繰り返して。
長嶋:半年くらいやったのかな。それでやっと一本ライブ出させてもらえたんですよ。「太田プロライブ」っていう。
聞き手:それからしばらくしてデビュー?どんな風だったんですか? 半年くらいたってから太田プロの人が、いいよ今度出てみるか、とか?
吉川:そうです。またデビューの会場がですねえ、キャパが大きかったんですよ。400ちょっとくらいの。ABC会館っていう朝日放送の。芝公園のとこにあるやつなんですけど、とにかくでっかくて。ぼくらピンマイクってつけたことなかったんですね。で、プロの舞台で初ピンマイク、お客さん400人、さてこれどうしようってなりました。
長嶋:ぼくら大学の教室でしかやってなかったですからね。
吉川:多くても100人前後ですから。だからものすごい緊張して、緊張っていうか、何かふぁーっとしちゃって、ピンマイクいらないくらい大きな声出しちゃいましたもん。割れてましたね、もう、音が。でも結構好評だったんですね。最初に出て。
聞き手:それは給料もらえたんですか、ちゃんと?
吉川:もらえないです、もらえないです。「もう出させてもらうだけで、いいでしょ君たち」っていうのが暗黙の了解ですよね。最初はぼくたちも出るだけでほんと十分だし。
長嶋:あってたんですよ、ちょうど。まだお金とかいう概念が無くて。出させてもらうだけでありがたい。お偉いさんが「よかったんじゃないの」って言ってくれれば、もう来月につながる…。
吉川:で、二月にそのライブに出て、四月にはNHKの「オンエアバトル」に出させてもらったんですよ。これはいけるんじゃないかと、とんとん拍子で。と思いきや、130キロバトルとかで、もう見事に落ちまして。
長嶋:最高が545なんですね。で10組でて上位5組なんですけど、100何キロバトルっていうのは全然下の方なんですよ。やっぱりいきなりにはまったく通用せずで。
聞き手:それはお客さんが点数を入れてくれるんですか?
吉川:全然玉入んなかったよね。4個とかですよ玉。で次ぎに出た時に受かったんだよね。400何キロバトルとって。
長嶋:その時のコントは…シュプレヒコールをして、歩くっていうなんかこう垂れ幕持つじゃないですか。デモ行進やってるじゃないですか。鉢巻巻いて。鉢巻まいて。まあメーデーみたいな感じで、「とりあえず反対」って書いてあって。何かについて反対したいんだけど、その対象がないから身の回りの些細なことに反対していこうって二人のコントで。
聞き手:ネタを考える苦しさってあるでしょ?
長嶋:メモ魔ですよね。日頃から何かしら書いてたりして。ひらめきっていうか、書こうと思って書こうとするんで、結構いろんなことメモしたりして、おもしろいですよ。でつくるってなった時に、メモ帳をめくってって面白いキャラクターや単語や何やらをどっかに当てはめてったら面白いのできるかなという。あとは設定ですね。
吉川:売れてる人達っていうのは、やっぱりそれなりにちゃんと理由があって。何かあるんですね。プラス時流とか色々相まって。でも売れてる人達はすごいと思います。自分たちがやってない時はどうせ消えるんだろうなあとか、スベってるとか、冷めた目で見てたんですけど。実際やってみるとやっぱりテレビでてる人ってすごい努力もしてる。ポッと出ているように見えてても、何年も下積みしてたりとか。
聞き手:芸人の世界はデビューしたときからの年齢で先輩後輩とかって、ぼくらが思うよりすごいと思うんだよね。体育会系だよね。
吉川:和光ってそんな体育会系でもないですよね。先輩と後輩もはっきりしないですしね。「何とか君」とか普通に上の人とか呼び合ってたり。それでいきなり体育会系のところに飛び込んだので、年下でも先輩でその人には敬語使わなきゃいけなかったり、そういうのがあんまりなじめなくて、いまだに続いてます。
聞き手:それで生意気だって言われるとか…。
長嶋:ええ。ぼくら二人楽屋とか行くじゃないですか、ほんと二人だけですもん。話しが合わないっていうか、根本的に合わないところもある。なんか同じものを見て、同じものを食べて、同じことしても個性って出ないじゃないですか。いわゆる徒党くんだり、誰々グループとか、そういう風にしてもいいんでしょうけど、それで何が面白いのって、なってくると思うんですよね。じゃあ違うもん見ようよぼくらは、っていうのはあって。
聞き手:でもそれは和光らしいかもね。ところで、食べていけてますか、今?
吉川:微妙に食えてないですよ。
長嶋:食えるとこまではもうちょいですね。
聞き手:家族の方はどんな風に?
吉川:家族は最初の頃は反対してましたけど、今はもう頑張ってみろって言ってますねえ。毎回親に言われるんですが「迷ったときは難しい方を選べ」と。まぁこの世界はどう見ても難しいじゃないですか。だからやれるところまでやって、そして果てろって言われてますね。最初は怒られましたよ、ほんとに。猛反対でしたね。
長嶋:「せっかく学校にも入れて、高い月謝を払って、結果がコント。お金をどぶに捨てたようなものだ」未だに言われますからね。でもテレビとかでてると、「まあいいんじゃないの」みたいな、誇らしげな顔をしてますけどね。ぼくはもうバイトやめたんで、もう少ない給料で。絶対こっちでいこうと。
聞き手:自分たちの学生時代どんなことが良くて、どんなことで育ったとか、逆に今の高校生に自分たちの活動からのメッセージやコメントを。
吉川:和光は良くも悪くも自由ですからね。やりたいことを見つけてやってかないと、結構流されちゃいますから。友達とかも限られちゃうとこもありますし。だから自分からアクションを起こさないとニートになってしまう気がします。なので好きなことを見つけて、自由さを味方に好き勝手やればいいと思います。とにかく色々やってみたほうがいいんじゃないかと。アナーキーでもアバンギャルドでも何でも。
長島:何かやりたいなあって思った時に、親であったり、環境であったり、やりにくい状況っていうのがこの先いっぱい出てくると思うんです。けど、誰が一番応援してあげなきゃいけないかっていうと、自分なんで。自分が一番の理解者であり、応援者であり、そういうのを強く持っていれば、たぶん周りの声は聞こえないですね。
いわゆる、図太くできているんたよね。いい意味で勝手さとか、そういうのがもう学校生活で培われているので、君たちは大丈夫だ、ということです。ガンガンいってしまえと。誰かに何かを言われてるってことは、誰かより何かが突出してるってことで、それをプラスに考えてしまおうという。で自分がこう積極的に動いていれば、そのパワーは絶対に人に伝わるんで。まわりも応援してくれるし。状況を良くするのは自分であり、ってことだと思うんですよね。何でもやって、自信たっぷりでやってほしいんですよ。嘘でもいいんで。はったりで。
聞き手:この前、別の卒業生にインタビューしたときに、彼は「根拠のない自信がある」って言ってましたよ。
吉川:本当にその通りですよね。ぼくらも本当そうですよ。根拠なんてないですもん。
聞き手:ないのなんて当たり前ですよね、この若さで。でも和光の中で馬鹿にされない、根拠のない自信ができたというのは、そういうのはうれしいと思いますね。
吉川:そこで和光教育の自由さみたいなのが出てくるんだと思いますよ。で、その根拠のない自信っていうのは、何か自分はこういうことができるんだ、こういうのやるんだぜ俺、っていうところで、あるひとつのゴールを据えると思うんですね。で自由だからこそ自分にしか目指せないゴールていうのを設定できるわけで。あとはそこに向かって言ってしまった以上やる、ということですよね。もう自分でそこに向かって行くしかないって。だから一人一人ゴールが違う。それが和光の自由につながっていると思うんですけど。
聞き手:F1レーサーの佐藤琢磨君が同じようなことを言ってました。F-1の登竜門入るときに最初書類審査があるんですよね。彼年齢高いし、全然ゴーカートのかこもない。これだと落ちると思ったんですね。それで面接してくれと。とにかくこんなやり方では駄目だと。全員面接してくれと。で強引に押しとうして面接やってもらった。その面接のときに「ぼくは絶対に勝つんだ」という話をしたの。それで周りからあいつ根拠のない自信があるって言われたんですよ。だからね、本当にうちの人達から「根拠のない自信」の良さを聞いちゃってから、これ大切だなと思っているんです。
長島:どれだけ自分が可能性持ってるかなんて、やってみなきゃわかんないですからね。意外とできるもんですよやってみると。あまり他人と比べないで、自分と比べていけばいいと思いますね。
聞き手:ありがとうございました。
(2005年6月掲載)