「本物」を経験させること ~ヴァイオリニスト服部豊子さんの自伝と、和光学園が創立以来大切にしてきたこと~

和光小学校 校園長ブログ
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コロナ禍での1学期

長い休校期間を経てようやく始まった2020年度も、もうすぐ1学期を終えようとしています。6月の1ヶ月は分散登校、登園の日々でしたが、7月に入り通常の授業、保育を行うことができるようになりました。といっても、教室での机と机の間隔を十分に取るため、子どもたち同士が顔を合わせて討論するために大切にしてきた「コの字型」の机の配置を行うことができず、教室の端から端まで机を並べ、幼稚園はクラスとクラスの間の壁を取り払い、朝の会などの集まりの時にはひとクラスは体育室を使うなど、「密」を避ける工夫をしています。(最近は半分だけ間仕切りをつけています)お昼のお弁当の時は、小学校では「しゃべらないで」と声をかけざるを得ず、幼稚園ではテラスや体育館などに一人一人がシートを敷いて広く間隔を取っています。子どもたちが帰った後の毎日の消毒も欠かすことができません。

休校、休園期間中の生活を少しでも取り戻すために、1学期の終業式は731日とし、国民の休日である723日、24日も登校日、登園日としました(83日、4日が代休)。いつもならとつい口をついて出てくるのですが、幼稚園の年長児も小学生も7月に入ったら順次林間合宿に出かけているはずです。今年のように梅雨が長引いていると雨の中での登山となっていたことでしょう。感染拡大がまだまだ続いている状況では、子どもたちが集団で宿泊を伴う活動をし、指導員として複数の学生さんたちにも参加してもらう林間合宿を行うことは、とてもできないと判断しています。

今年の1学期は2ヶ月間となり、最初の1ヶ月は分散登校のため授業時数も制限されましたが、運動会、林間合宿への取り組みのない日々は、図らずも教科の学習と生活べんきょう、総合学習に集中する毎日となりました。

調理活動ができない「食」の取り組み

それでも文科省から示されているガイドラインでは、「感染対策をとってもなお行うことができないこと」として調理活動が挙げられています。5年生の総合学習は「食」がテーマです。調理活動ができない「食」の取り組みになるなんて・・・担任はもちろん、子どもたちもどのように取り組んだものかと困惑していることでしょう。

このような中でも、私たちは「本物」を体験し、追求することは教育の本質だと考えています。調理活動ができない状況での「食」の取り組み、試行錯誤しながらではありますが、今年も「本物」を目指しています。

5年生は休校期間中から「お料理をした」という生活ノートが担任に届けられ、学級通信で配信されていました。中には手打ちうどんを作ったり、水信玄餅を作ったと写真と作り方のレポートをしてくる人もいました。これまでの5年生の取り組みを見てきた子どもたちは「食」のイメージを持っていることもあり、休校期間中に「テーマにしたいこと」のアンケートを取りました。

51組のテーマは「駄菓子」

51は学校再開初日の学級通信にその結果が載っています。それによるとだんご、せんべい、アイスクリームが同数で、わらびもち、タピオカと続きます。上位3種類のうちだんご、せんべいを配り、「本当は学校で食べ比べて考えあいたいのですが、食べることができないので」と、持ち帰って家で食べてもらうことにしました。学校では作る”“食べることができない中、それぞれに食べてみた、調べてみたなどの交流をし、何にするかを何度が話し合っています。「わらびもち」という声が多く、担任が作ってみたら、けっこうかんたんに作ることができたそうです。「もう少し難しいのがいい」という子どもたちともう一度考えあい、上菓子(いわゆる和菓子)と駄菓子が話題になり、その違いを出し合いました。子どもたちには上菓子は貴族”“お金持ち、駄菓子は庶民”“子どもというイメージがあり、上菓子として羊羹、大福、わらびもち、カステラ、金平糖などを挙げ、駄菓子はわたあめ、水あめ、うまいぼう、ラムネ、麩菓子、きなこぼうなどを挙げます。すでにきなこぼうを作ってきた、と材料、作り方、作った感想をまとめてきたり、カルメ焼きを作って「カルメ新聞」にまとめて発表したり、大福を作ってきたとまとめたりと意欲的な取り組みが続き、最終的には駄菓子と大福のどちらかに、となりました。それぞれの「いい理由」「いやな理由」を出し合い、担任が準備した豆大福と駄菓子(かりんとう、きなこあめ、ソースせんべい)の食べ比べをしました。もう7月中旬になっていてお弁当も食べるようになっているので、(感染に)気を付けながら食べることはできるようになりました。食べ比べの結果、駄菓子は「作るのが楽しい」「おいしい」「いろいろな種類が作れる」、大福は「おいしい」「中に色々入れてアレンジできる」「粉をつければべたつかない」とそれぞれにいい理由が出されますが、大福は「作るのがたいへんそう」「あんこが嫌いな人もいる」などのいやな理由が出され、多数決で2214で駄菓子に決まりました。

<どんな駄菓子を作ってみたい?ときいたところ、ふがし、カルメ焼き、きなこぼう、かりんとう、べっこうあめ、ぼんたんアメ、かばやきさん、よっちゃんいか、が出されました。かばやきさんやよっちゃんいかは商品名ですが、自分たちで作れるかしら? また、「ママがくすりとか入ってるって言ってた」と言う子どももいて、「それはてんかぶつって言って保存料とか着色料とかのことだね。そのことも調べてみたら勉強になるし、みんなが作る駄菓子はそういうくすりが入っていない、体にもいい駄菓子を作っていけばいいね!」と話しました。駄菓子屋さんにも、できたらみんなで行ってみたいし、どんな駄菓子研究ができるか、ワクワクしてきました!みんなからの情報、まってます!>(7/15学級通信より)

さっそく「駄菓子情報シート」に、おばあちゃんから聞いた話、駄菓子屋さんを見つけた、という情報が届きます。経堂駅の向こう側の商店街には昔ながらの駄菓子屋さんがあり、クラスみんなで訪問することになりました。「ラムネ」、「もちもち君」を家で作ってきた、とみんなに持ってきてくれた人もいていっしょに食べてみたそうです。学級通信には担任から『人と土地と歴史をたずねる和菓子』(中島久枝・著)の中の「駄菓子歴史ばなし」が紹介されています。

52組のテーマは「だんご」

526月再開後早々にアンケート結果が紹介されていました。1位わらびもち、2位どらやき、カステラ、3位だんご、せんべい、アイス。この結果に、「わらび餅は面白そうだけど、わらび粉つくれるかな~?製品のわらび粉から作るだけでは簡単すぎるな。」と担任は学級通信でつぶやいています。学校再開初日には担任から4種類のおせんべいを渡し、家で食べ比べるということをしてもらいました。そして、<どれが一番高いか?の予想をしました。それぞれに理由を聞いた上で、せんべいの袋に書かれた商品名、原材料を見ながらもう一度考える、という授業を行います。「名前はDがいい」「袋はCが高そう」「デキストリンって何?」「Bだけうるち米が米国産」「遠いところから来た方が高くない?」「でもアメリカのお米、安くてまずかったよ」「加工デンプンは人の手で加工してそうだから安いかも」などなど、袋を見ていくといろいろなことが発見できます。 この「いろいろ発見できること」が総合では大事!!こういうことができるテーマがいい。・・・・・「値段=味」とはかぎらない、ということも見えてきました。>(6/10学級通信より)この時点で担任の一押しはせんべいかな、と私でなくても感じたことと思いますが、アンケート上位三位までの6つの食べ物の材料、作り方を確認した後、自分たちで作れるか?いちょうまつりで売るとしたらどうか?の2つのポイントで考えました。「面白そう、やってみたい」(〇)と「難しそう、やめた方がいい」(×)の意見を出し合い13回ずつ手を挙げて3つに絞ります。

結果はわらびもち22票(〇簡単とはいえない)(×わらび粉が作れない、簡単すぎ、黄な粉が飛びやすい)どら焼き20票(〇あんこを作るのに時間はかかるけどやりがいがある、難しいからいい)だんご20票(〇いろんな団子がある、ちょうどいい、たれは工夫すればいい)(×たれがついてベトベトに広がりすぎ、機械がないと難しい、あんこもみたらしもだと大変)アイス19票(〇売れてた(兄の時))(×とけてベタベタになる、簡単すぎ、今年はいちょう祭りが冬だから寒くて売れないかも)カステラ9票(×難しすぎ、道具がなさそう)せんべい5票(〇歩きながら食べられる)(×兄の時固かった、パサパサになりそう、ボロボロにおちそう) 〇と×の意見を見ると、すでにいちょう祭りでの商品としてどうか、という視点で見ているようですが、やはりある程度の難しさがあることがやりがいにつながることを感じ取っていることがわかります。3つに絞ることになっていたのですが、わらびもち、どらやき、だんごに加えて、アイスは1票差なので残り、4つの中から1つに決めることになりました。

いよいよテーマを決めることになり、それぞれ食べてみてから判断してほしい、と担任が準備をしました。京都嵐山のわらびもち、和菓子屋さんのどらやき、だんごは団子やさんのをと思ったそうですが昔より団子屋さんが少なくなっていて 結局コンビニのだんごになったそうです。アイスは(感染対策のため)切り分けて冷凍しておいたそうですが学校の冷凍庫では溶けてしまいました。それぞれ食べてみたあと前回絞ったときに書いた感想を読みあい、その後4つのテーマについて「やりたい、すいせん」「これはやめた方がいい」という意見をさらに出し合い、投票しました。一人3回→2回→1回と投票し、絞っていきました。

<まずアイスがはずれた。シェアしたり、売る難しさが感じられたのかな。次にわらびもち。最初のアンケートでは1位だったけど、食べてみて本物の「やわらかさ」に難しさを感じた人も多かったみたいだね。最後はどらやきとだんごで決選投票になったけど、「あんが苦手」という人もいて「だんご」が選ばれました。「だんご」は原料が「米」なので、社会科の学習ともつながる良いテーマだ。まずは身の回りの団子情報を集めてほしい。売っていた・食べてみた・値段・味・名前(〇〇だんご)・原材料・作っている会社・店・場所・作っている人・作り方・作ってみた、など、情報カードに書いたりはったりして報告してください。>(7/9学級通信より)担任の呼びかけに、さっそく情報カードが届き始めています。いつもなら買ってきた、作ってみた、など持ち寄ってみんなで食べてみるということをしますが、今年は「対策」が必要なので、必ず事前に連絡してください、ということも担任からは呼び掛けています。

「小学校時代の子どもたちに、勉強でも遊びでも運動でも「本物」を経験させようとしていた」

6月末、1冊の本が送られてきました。『いつも心に音楽を』と題したヴァイオリニスト服部豊子さんの自伝でした。1926年に東京で生まれた服部さんは、当時日本の植民地だった朝鮮で幼少期を過ごし、小学校入学の時期は再び東京に戻ってきます。5年生の2学期、知り合いの方に薦められて四谷の小学校から和光学園に転校しました。

自伝では、「和光学園での楽しかった日々」という小見出しで<和光学園での一年余りは、私にとって生涯で一番楽しかった時である。>と書いていらっしゃいます。和光学園が誕生してまだ数年目の、校舎は麦畑に囲まれていた頃でしょう。クラスメートは男子6人女子10人の16人、全校生徒は6年生までで80人くらいだったそうです。夏には今は和光中学が遠泳合宿をしている千葉県の館山で2千メートルの遠泳を行ったとか。工芸の長野先生の授業で実物大の胸像を作ったこと、斎田先生の絵の時間に初めて油絵を描いたこと、その斎田先生は子どもの劇団も主宰していて芝居をしたり学芸会でヴァイオリンの演奏をしたこと、冬にはスキー教室に行ったこと、56年生20人余りで関西旅行をして旅行記を作ったことなどなど、当時の様子が目に浮かぶようです。

<いま考えてみると、和光学園の楽しさは何であったのか。それは、小学校時代の子どもたちに、勉強でも遊びでも運動でも「本物」を経験させようとしていたことにあったと思う。考え方や行動を規制して型にはめこむのではなく、主体はあくまでも子どもだった。それが「自由教育」と言われていたことの実態だったと思う。昭和十年代にあのような学校があったのに、その後の戦争時代、自由はご法度となったことは、日本の国のために大変残念なことであった。>(『いつも心に音楽を』服部豊子・著、勉誠出版より)

和光学園の草創期、当時を振り返って和光学園の教育をこのようにとらえていらっしゃる卒業生の方がいらっしゃることに驚くとともに、八十有余年を経てもなお「本物」を経験させたい、という私たちが目指している教育の本質は変わっていないこと、これからも変わってはいけないことを改めて胸に刻みたいと思いました。

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