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校長室から

第59回和光高校卒業式式辞

 ちょうど1週間延期しての卒業式となりました。おめでたい席であるはずですが、巨大地震とその直後の大津波によって生命をなくされた多くの方々のご冥福をお祈りして、まずは黙祷を捧げたいと思います。
ご賛同いただける方、ご起立願います。黙祷。

  今日、和光高等学校を卒業する235名の皆さん、卒業おめでとう。 ご参列いただいた保護者の皆さん、お子さんの卒業、おめでとうございます。

 ごくごく当たり前にこの日を迎えた人。「ようやく、この日にたどりついた」とホッとしている人。それぞれの思いで、和光高校生活3年間を振り返っていることでしょうか? 和光高校生活3年間ではなく、途中で転入してきた人もいます。 先日、その一人・Aさんのおかあさんとお話しする機会がありました。

 Aさんはある有名私立高校から転校してきた生徒です。精神的に傷ついて和光にきたことと思います。お母さんは 
「どうしたらこういうやさしい生徒さんが育つのか、何度も不思議に思いました」 
「娘はこの学校で自信をとりもどすことができ、将来の目標も決められました」 
「本当にこんな学校があったのですね。最初から和光高校に入れたかったです」
などと語ってくれました。 今日、Aさんは胸を張って和光高校を卒業していくはずです 。

 

 そして、君たちと一緒に入学したけれど、一緒に卒業できない人もいます。途中で退学した人、卒業認定されなかった人、それぞれです。

 卒業認定されなかった一人・B君のお母さんと、先日面接をしました。お母さんは
「卒業できないことがわかった最初の2日ほどは落ち込んでいましたが、その後は何だかケロッとしているんですよね。『大丈夫。自分はなんとかなるから』と言うのです。なんの根拠もないのに、大丈夫と言うのです。根拠のない自信には困ったものです」
 と、ほとほと困った様子で語ってくれました。  

 私は、数ヶ月前に報道された世界の高校生を対象にした意識調査の結果について話しました。「自分はダメな人間だと思う」と答えた者が、日本は66%でトップでした。2位の韓国が40数%、他の国は10~20数%ですから、日本という国の異常さが際立っていました。日本の多くの高校生は、競争主義教育と管理主義教育のなかで、「自分はダメな人間だ」と思い込まされてしまっている、つまり自己肯定感を奪われている、ということを話した上で、B君の「大丈夫。自分はなんとかなる」という気持ち=お母さん言うところの「根拠のない自信」が、どんなに貴重なものか、ということを話しました。

 

 「根拠のない自信」……君たちはこの言葉を聞いたことがありますか? 君たちのお父さん、お母さんは、楽しく学校に通っている我が子を見て、それはそれで何よりと思いつつ、時々不安に駆られるようです。ここ数年、学年親和会主催で「親だって“卒業生と語る会”」なる会がもたれるようになり、親和会教研部や役員会主催で、毎年のように「卒業生から聞く会」やパネルディスカッションが企画されています。私も何度か参加しました。

 卒業生への質問の数々に「我が子が、大学受験とその先の格差社会を乗り越えていけるのだろうか?」といった不安が垣間見えるようでした。

 しかし、卒業生の答えが実に見事でした。それぞれ自分の言葉で、ユーモアを交えて語るのです。「自分さえ良ければ」ではないことも、共通していました。会場は笑いに包まれ、そのたびに不安は解消していくようでした。

 取材にきていた中学親和会広報部の二人のお母さんが、「和光高校、素晴らしい。もう、最高!」と興奮気味に話していました。そして、中学の親和会でも同じ企画がもたれるようになりました。

 こうした場でも、卒業生の口々から「別に根拠があったわけではありませんが、なんとなく自信はありました」などと語られます。

 

 私は、こうした和光高校卒業生の語る「根拠のない自信」について、あれこれ考えました。「世間知らず」の一言でバッサリ切り捨てることは簡単です。しかし、一般的に使われる「根拠」とは一体何を指すのでしょうか?

 全国模擬試験の順位や偏差値・合格可能性何%といった数字、ブランドの高い有名大学、資格、一流企業……といったことを指すのでしょう。それらを持たずとも「何とかなる」と考えるところが、「根拠のない」と言う理由なのでしょうか?

 私は、彼らの語る「根拠のない自信」には確かな根拠があると考えるようになりました。それは、自己肯定感という根拠です。「根拠のない自信」ではなく、「自己肯定感という根拠に基づく自信」と言い換えると、卒業生たちのあの明るさ、しなやかさとしたたかさ、たくましさ……といったことが理解できると思いました。

 つまずいても、「自分はダメな人間だ」とひきこもってしまうのではなく、「大丈夫。自分はなんとかなるから」と考えることができるB君も、自己肯定感という根拠をしっかり獲得していたのです。自信をとりもどしたというAさんも同じではないでしょうか?

「自分はダメな人間だと思う」と答える高校生が66%もいる日本という国にあって、今日、和光高校を卒業する君たちが、「自分はダメな人間ではない」「ダメな人間などいない」という価値観・人間観をしっかり持っていることを信じたいと思います。

 そこにこそ、競争主義と管理主義を排した和光教育の真価があると思っています。

 「自分はダメな人間だ」と思い込まされている人間は、自分よりダメな人間を捜して安心を得ようとします。「自分は大切な存在」と思っている人間は、他者の価値を認めることができます。他者の痛みを理解することができます。  

 

 君たちの行く手は平坦ではありません。厳しい現実が待っています。
◆ 大学生、短大生、専門学校生の8人に1人が、中途退学する現実 
◆ 大学生の4人に1人が正規職に就けない現実(東大生も例外ではありません)  
 といった厳しい現実です。

 君たちがどんなに努力しても、「8人に1人」の1人になるかもしれません。「4人に1人」の1人になるかも知れません。しかし、どんな時にも、けっして自分を大切に思う心=自己肯定感を失わないでほしいと思います。  

 そして、たとえ、正規職に就いたとしても、
◆ 3年以内に離職する者が、高卒者で49%、大卒者で35%という現実  
 があるのです。それは、「いつでも派遣社員に換えればよい」とばかりに、劣悪な労働条件=サービス残業・長時間労働が押しつけられた結果なのではないでしょうか?

 正規職の人にも非正規職の人にも、両方にプラスになる方法はないのでしょうか?

 たとえば、 
◇ 社員1000人の会社で、10時間労働を8時間労働に正せば、 
 10h×1000人÷8h=1250人 ⇒ 250人の雇用拡大 が可能です。

 サービス残業や長時間労働をやめさせ正規雇用の人の労働条件を守ることで、非正規の人が正規職につけるのです。

 さらに、労働時間をヨーロッパなみに近づけることで、 
◇ 社員1000人の会社で、8時間労働を7時間労働に短縮できれば   
 8h×1000人÷7h=1142.8人 ⇒ 143人の雇用拡大 が可能です。  

 そんな簡単な算数のようにはいかない、と考えますか?

 しかし、3月11日付け……あの大地震のあった日の「朝日新聞」13面に、岐阜県の電気設備資材メーカー・未来工業という会社が紹介されていたのです。この会社は 
◇ 1日の労働時間が7時間15分。残業は原則禁止 
◇ 年間休日が140日。それとは別に最大40日の年休 
 という労働条件で、実績を伸ばし続けているのです。

 「正規職か、非正規職か」の二者択一的思考ではなく、「なぜ?」「どうして?」「本当か?」を大切にした和光の学びを活かしてください。

 「これでいいわけがない。この現実を変えなければいけない」と考え、行動できる人になってください。正規・非正規の枠を超えて連帯を広げられる人になってください。仲間とともに困難に立ち向かっていける人になってください。和光高校の自治活動が本物であったかどうか、そこで問われます。

 

 別れのときがきました。

 ここまで君を育ててくれた家族に、「ありがとう」を言ってほしいと思います。 そして、私が口にするのはおこがましいかも知れませんが、和光高校の先生・職員にも「ありがとう」を伝えていってください。11日のあの地震のとき、和光高校教職員が示した夜を徹しての行動を詳しく報告する時間はありません。見事の一語に尽きるということだけを伝えます。そんな教職員に守られて、君たちの和光高校生活はあったのです。

 最後に、「自分さえ良ければ」ではない君たちにお願いします。今こうしている間にも寒さと飢えに震える被災地の人たちがいます。その人たちのために、今、何ができるのかを考えながら卒業していってください。

 

2011年3月19日 和光高等学校 
校長  両角 憲二

日時: 2011年3月21日 04:45

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